RenderScriptはAndroid OS3.0から導入された、ハイパフォーマンスな3Dグラフィックスのレンダリングや演算をC言語(C99の構文)で記述できるAPIです。
これまでも、ハイパフォーマンスなレンダリングを行う手段として、OpenGLをNDKで直接叩くという方法がありましたが、RenderScriptはLLVMで一旦中間コードにコンパイルされたものがアプリケーションに付随され、実行時にそれぞれの環境向けに最適化されたマシンコードに更にコンパイルして実行するという仕組みになっております。
その結果、使用しているCPUやGPUの種類によらず、同一のソースコードでそれぞれの環境に置いて効率の良いパフォーマンスを発揮しますが、当然のこととして、特定の環境向けにカリカリにチューニングされたOpenGLのパフォーマンスには及びません。
ただ、iPhoneと違って、様々なプラットフォーム上に展開しているAndroid OSのデバイスとしては、環境依存を吸収する手段として、なかなか面白い仕組みでは無いでしょうか?
■RenderScriptシステムのレイヤー構造
RenderScriptのシステムは、以下の3つのレイヤーから構成されます。
・Native RenderScript layer
このレイヤーはレンダリングや演算の為のRenderScriptそのものです。上に書いたように、C言語の構文で記述しますが、 RenderScriptは汎用的なCPUのみならず、GPU上でも実行する場合もあり得るので、標準的なCのライブラリーがすべて使えるわけではありません。
Native RenderScriptライブラリーで提供されている主な機能は下記。
- 膨大な数の演算関数
- ベクターや行列等の基本データ型に変換するルーチン
- ログ取得の為の関数
- グラフィックスのレンダリング関数
- メモリー領域確保の為の関数
- 2元、3元、4元ベクトル等の、RenderScriptシステムをサポートするデータ型や構造
Reflected layerは、AndroidVMからnative RenderScriptコードにアクセスする為の レイヤーで、Androidのビルドツールが自動生成します。その為、Reflected layerは、Android frameworkからRenderScript内の関数や変数にアクセスする為のエントリーポイントを提供します。
・Android framework layer
Android framework layerは、RenderScript APIや通常のAndroid framework APIから構成され、あなたのアプリケーションのActivityのライフサイクルやメモリーの管理などをします。また、このレイヤーで、Reflected layerを介して、ユーザーの操作をnative RenderScriptのコードに関連づけたりもします。
と、かなり前置きが長くなりましたが、詳しくはここのドキュメントを読んでみてください。Flasher的にはC/C++で記述し、同様にLLVMでActionScriptに変換するAlchemyを使うのと、ノリは似ているかも知れませんね。
今回、RenderScriptを使ってFlashでよく使われるParticleのデモを実装してみたいと思いますが、題材としてWonderflの重力マウス(さらに軽量化してみた)を使用したいと思います。
■重力マウスをRenderScriptに移植
重力マウスを移植するにあたって、以下の4つのファイルを記述します。
Gravity.java | GravityアプリのActivityを記述 |
GravityView.java | RenderScript用のSurfaceViewを記述 |
GravityRS.java | RenderScript用のエントリーポイントクラスを記述 |
gravity.rs | RenderScriptのコードを記述 |
Gravity.java
package com.android.sample; import android.app.Activity; import android.os.Bundle; import android.util.Log; public class Gravity extends Activity { private GravityView mView; /** Called when the activity is first created. */ @Override public void onCreate(Bundle savedInstanceState) { super.onCreate(savedInstanceState); mView = new GravityView(this); // RSSurfaceViewの作成 setContentView(mView); } }特に何も難しいことはしていません。Activityの中で、アプリケーションで使用するViewを設定していますが、今回はRSSurfaceViewを継承したGravityView(後述)を作成してます。
GravityView.java
package com.android.sample; import android.renderscript.RSSurfaceView; import android.renderscript.RenderScript; import android.renderscript.RenderScriptGL; import android.content.Context; import android.view.SurfaceHolder; import android.view.MotionEvent; public class GravityView extends RSSurfaceView { public GravityView(Context context) { super(context); } private RenderScriptGL mRS; // グラフィックス出力の為にスクリプト等 // を付与するコンテクスト private GravityRS mRender; // エントリーポイントクラス // Surfaceの構成が変わると呼ばれるハンドラー public void surfaceChanged(SurfaceHolder holder, int format, int w, int h) { super.surfaceChanged(holder, format, w, h); if (mRS == null) { // グラフィックスのピクセルフォーマットを指定する為のクラス RenderScriptGL.SurfaceConfig sc = new RenderScriptGL.SurfaceConfig(); mRS = createRenderScriptGL(sc); mRS.setSurface(holder, w, h); //osのsurfaceをバインド // エントリーポイントクラスを作成 mRender = new GravityRS(); mRender.init(mRS, getResources(), w, h); // 初期化 } } @Override protected void onDetachedFromWindow() { // 後始末 if (mRS != null) { mRS = null; destroyRenderScriptGL(); } } @Override public boolean onTouchEvent(MotionEvent ev) { // エントリーポイントクラスにタッチした座標、指圧と // IDの情報を渡す // IDはマルチタッチがサポートされている場合に、 // タッチした指を識別する為のID mRender.newTouchPosition(ev.getX(0), ev.getY(0), ev.getPressure(0), ev.getPointerId(0)); return true; } }RenderScriptでレンダリングした内容を表示する為のSurfaceViewクラスです。
surfaceChanged()メソッド内でRenderScriptのコンテキストを生成し、Surfaceをバインドしています。スクリプトのバインディングは、後述するエントリーポイントクラス(GravityRs)の方で行なっています。
また、タッチイベントが発生した際も、エントリーポイントクラスに座標等のタッチに関連する情報を渡します。このように、ユーザーの操作によって発生したイベントは基本的にエントリーポイントクラスに情報を渡して、エントリーポイントクラス側で処理をしてもらいます。
GravityRS.java
package com.android.sample; import android.content.res.Resources; import android.renderscript.*; public class GravityRS { public static final int PART_COUNT = 50000; // 総パーティクル数 public GravityRS() { } private Resources mRes; private RenderScriptGL mRS; // レンダリングのコンテクスト private ScriptC_gravity mScript; // スクリプトファイルへの // エントリークラス // 初期化関数 public void init(RenderScriptGL rs, Resources res, int width, int height) { mRS = rs; mRes = res; // GLSLコードを用いないシンプルなフラグメントシェーダーを作成 ProgramFragmentFixedFunction.Builder pfb = new ProgramFragmentFixedFunction.Builder(rs); // バーテックスプログラムから指定された色を使用する pfb.setVaryingColor(true); // フラグメントシェーダーをレンダリングコンテクストにバインド rs.bindProgramFragment(pfb.create()); // スクリプト内のPoint構造体×パーティクル数の分だけ // メモリー領域を確保する ScriptField_Point points = new ScriptField_Point(mRS, PART_COUNT); // RenderScriptで表示する幾何学データのコンテナを作成する // オブジェクト Mesh.AllocationBuilder smb = new Mesh.AllocationBuilder(mRS); // pointsを頂点データとしてオブジェクトに追加 smb.addVertexAllocation(points.getAllocation()); // データの種類を点座標に設定 smb.addIndexSetType(Mesh.Primitive.POINT); // コンテナを作成 Mesh sm = smb.create(); // スクリプトファイルのエントリークラスを生成 mScript = new ScriptC_gravity(mRS, mRes, R.raw.gravity); // スクリプト内のpartMeshにMeshをセット mScript.set_partMesh(sm); // pointsとスクリプト内のpointをバインド mScript.bind_point(points); // レンダリングコンテクストにスクリプトをバインド mRS.bindRootScript(mScript); } // タッチ情報のアップデート public void newTouchPosition(float x, float y, float pressure, int id) { mScript.set_gTouchX(x); // スクリプト内のgTouchXにX座標をセット mScript.set_gTouchY(y); // スクリプト内のgTouchYにY座標をセット } }一見、複雑なことをやっているようですが、まずフラグメントシェーダーの設定し、それから座標データを格納するメモリー領域の確保をしてます。その後、ビルドツールで自動生成されるエントリーポイントのクラスをインスタンス化して、スクリプト内の変数やポインターと確保したメモリー領域の関連付けを行ってます。
そして最後に、レンダリングコンテクストにスクリプトをバインドして実行、という感じでしょうか?
gravity.rs
#pragma version(1) #pragma rs java_package_name(com.android.sample) #pragma stateFragment(parent) #include "rs_graphics.rsh" // staticな変数はエントリーポイントが生成されない static int initialized = 0; rs_mesh partMesh; // 描画するデータのコンテナ // タッチ座標 float gTouchX = 0.f; // X座標 float gTouchY = 0.f; // Y座標 // パーティクルの構造体 typedef struct __attribute__((packed, aligned(4))) Point { float2 delta; float2 position; uchar4 color; } Point_t; Point_t *point; // パーティクルの初期化 void initParticles() { // データサイズを取得 int size = rsAllocationGetDimX(rsGetAllocation(point)); float width = rsgGetWidth(); // サーフェイスの幅 float height = rsgGetHeight(); // サーフェイスの高さ uchar4 c = rsPackColorTo8888(0.9f, 0.0f, 0.9f); // 色 Point_t *p = point; for (int i = 0; i < size; i++) { p->position.x = rsRand(width); // 乱数でX座標をセット p->position.y = rsRand(height); // 乱数でY座標をセット p->delta.x = 0; p->delta.y = 0; p->color = c; p++; } initialized = 1; // 初期化完了 } /* * root()は描画する毎に呼ばれる */ int root() { // 初回実行時に初期化 if (!initialized) { initParticles(); } float width = rsgGetWidth(); float height = rsgGetHeight(); // 指定色でレンダリングサーフェイスをクリア rsgClearColor(0.f, 0.f, 0.f, 1.f); int size = rsAllocationGetDimX(rsGetAllocation(point)); Point_t *p = point; for (int i = 0; i < size; i++) { float diff_x = gTouchX - p->position.x; float diff_y = gTouchY - p->position.y; float acc = 50.f/(diff_x * diff_x + diff_y * diff_y); float acc_x = acc * diff_x; float acc_y = acc * diff_y; p->delta.x += acc_x; p->delta.y += acc_y; p->position.x += p->delta.x; p->position.y += p->delta.y; p->delta.x *= 0.96; p->delta.y *= 0.96; if (p->position.x > width) { p->position.x = 0; } else if (p->position.x < 0) { p->position.x = width; } if (p->position.y > height) { p->position.y = 0; } else if (p->position.y < 0) { p->position.y = height; } p++; } rsgDrawMesh(partMesh); // 座標データ列の描画 return 1; // おおよそ1ms後に再描画 }最後にいよいよRenderScriptの本体です。
まず、Point構造体がパーティクルのデータ構造を構成しており、初回実行時だけ、initParticles()関数内で、パーティクルの座標や色のデータの初期化を行います。
そして、root()関数が描画毎に呼ばれる関数で、Flasher的にはenterFrameのイベントハンドラーのようなものと思えば、理解がしやすいでしょうか?この中のfor文で各パーティクルの座標データをアップデートしております。ここのコードは重力マウスのコードをほぼ、そのまま丸パ◯リ(笑)
ActionScriptでは、動作スピードを上げる為に、リンクリストを形成しておりましたが、ここではリンクリストは使用しないで、単純に構造体のポインターをfor文で要素の数だけ回すという処理になってます。
パーティクルの座標データの更新が終わったら、rsgDrawMesh()という関数で、コンテナ内のデータを元に描画を行います。
最後に、このファイル中に出てきたRenderScript関連の関数をまとめておきます。
rsGetAllocation() | VM側で確保したメモリー領域を返す |
rsAllocationGetDimX() | メモリー領域のX方向の大きさを返す。今回、データは1次元の配列なので、要素数を返すことと同じか? |
rsgGetWidth() | サーフェースの幅を返す |
rsgGetHeight() | サーフェースの高さを返す |
rsPackColorTo8888() | R, G, B値から色コード(8888形式)を生成 |
rsRand() | 乱数値を生成 |
rsgDrawMesh() | コンテナのデータを元に描画 |
■RenderScriptのパフォーマンス
RenderScriptを使うことで、どれくらいのパフォーマンスが出たのでしょうか?PC上では重力マウスは、楽に60fps出ていますが、手持ちのXOOMのブラウザ経由では、20fpsほどしか出ません。
今回、RenderScriptにはfpsを計測する機能を実装していないので、厳密にはどれくらいのフレームレートが出ているのかはわかりませんが、 フルスクリーン(解像度で4倍以上)で、尚且つパーティクルの数を50000に増やしても、目視で30fpsはゆうに出ているように感じました。
なので、少なく見積もっても5倍以上の性能差はありそうです。モバイル版のFlash Playerに早くStage3Dが搭載されることが待たれますね。
実際のアプリケーションの動作の動画を以下に貼りつけておきます。
■まとめ
難しいことは全て理解しなくとも(私も半分くらいしか理解できてない)、上記ファイルをテンプレートに、RenderScriptファイル中のfor文の中身(パーティクルの動作をつけている部分)を適当に書き換えれば、簡単に遊べると思いますので、腕に覚えのあるFlasherの方に是非お試しいただければと思います。
まぁ、遊ぶにはAndroid 3.xの実機が必要にはなりますがね・・・(^_^;
こんにちは。
返信削除root()はCで言うところのmain()のような関数とありますが、
スクリプトのroot()がコールされるタイミングはいつなんでしょうか?
すごく基本的なことなんだと思いますが、もしよろしければご教示いただきたいです。
よろしくお願いします。
私も詳しくはわかりませんが、基本的には、画面の描画されるタイミング毎に呼ばれるようです。
返信削除一番はじめは、恐らくscriptがバインドされたタイミングで呼ばれ、以降はreturnの引数で指定された時間を目処に再描画を行なうようですので、そのタイミングで呼ばれるのではないでしょうか?
ご教示頂きありがとうございます。
返信削除お礼が大変遅くなり申し訳ございません。
自分でもログとったりして手探りで調べているところです。
root()がintだったりvoidだったり、アプリによって引数の構造がまちまちだったり、そもそも引数はどこと対応しているのかが不明で困ってるところです。
RenderScriptに関して現状英語も含めて情報が非常に少ない中、renderscript-examplesは非常に参考にさせて頂いております。
感謝しています, daoki2.
返信削除I can't speak japanese :)
I modified your code to use rsForEach.
See below:
https://github.com/dalinaum/Renderscript-Gravity
Before I modified, my galaxy tab 10.1 rendered 48fps. After modifying, it rendered 60fps.
I really thank you for your article. It was of help to me.
Dear Leonardo,
返信削除Thank you very much to improve my code.
This time, you helped me a lot to understand how the rsForEach behaves.
I will try if I can improve other code also.
Best regards,
daoki2